毒のあるドクチョウが鳥に避けられ、それに姿形の似ているチョウもまた鳥に襲われない、という擬態の話をしましたが、鳥が避けるのはドクチョウだけではありません。たとえばハチ。アシナガバチやスズメバチなどは毒針を持っていて,人間でもさされるとショック死にいたることもあるという恐い連中です。ハチの毒針の危険は鳥にとっても同じです。実際に鳥がこうしたハチ類を食べている場面を見かけることは野外でも滅多にありません。毒針を持つハチを鳥が避けるのは一般的な傾向なのです。とすると針はないけれどハチの姿をまねることで、鳥に襲われないようにする擬態の存在が考えられます。
ハチの姿をまねている連中というと、まずハナアブ類があげられます。学生と野外実習などしていて、私がハナアブをつかんでいると「先生、これ刺さない?」と、よく聞かれます。「大丈夫、これは羽が二枚だからハナアブ。四枚ならハナバチだけど・・」とその都度、説明するのですが、どうも信用してもらえないようで、「もってごらん」と言っても、今の学生達にはなかなかつかむ勇気はないようです。シオヤアブなどのムシヒキアブ類やハバチ類など毒針のないハチの仲間にも、針のあるハチに擬態していると思われるものは数多くあります。
ハチをまねているのはアブなどの双翅目だけではありません。蛾の仲間のスカシバはキイロスズメバチやオオスズメバチとそっくりです。スカシバ類は鱗翅目でありながら、前翅・後翅にはほとんど鱗粉がなく,翅が透明です。しかもかれらは飛び方や産卵中の姿勢までスズメバチそっくりで、虫の専門家がみてもだまされてしまうほどです。
甲虫類のトラカミキリ類やハナカミキリ類にもスズメバチやアシナガバチに擬態しているものが数多くいます。カミキリムシは甲虫ですから、前翅が堅い翅鞘(ししょう)に変化し、後翅は翅鞘の下に折り畳まれていて、飛ぶときにはそれが広がります。そしていわゆる黒と黄(橙)色のハチ模様は翅鞘に出ています。それくらいなら、よく見ればホンモノのハチでないことがわかりそうですが、実はこれらのカミキリムシ類もスカシバ類と同様、その飛び方までハチに似ているのです。
ハチへの擬態はアブだけでなく、蛾や甲虫にまで広がっているのです。ひょっとするともっと多くの昆虫、さらには昆虫以外の動物群にも、ハチをまねることによって、鳥の捕食を逃れている動物がいるかもしれません。野外で誰が”ハチまね”をしているか、皆さんも探してみて下さい。





