上田教授の”進化”で考える生き物の不思議

小野学園

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第24回 みんながまねたいハチ模様

痛いの嫌
 
 

 

 毒のあるドクチョウが鳥に避けられ、それに姿形の似ているチョウもまた鳥に襲われない、という擬態の話をしましたが、鳥が避けるのはドクチョウだけではありません。たとえばハチ。アシナガバチやスズメバチなどは毒針を持っていて,人間でもさされるとショック死にいたることもあるという恐い連中です。ハチの毒針の危険は鳥にとっても同じです。実際に鳥がこうしたハチ類を食べている場面を見かけることは野外でも滅多にありません。毒針を持つハチを鳥が避けるのは一般的な傾向なのです。とすると針はないけれどハチの姿をまねることで、鳥に襲われないようにする擬態の存在が考えられます。

 ハチの姿をまねている連中というと、まずハナアブ類があげられます。学生と野外実習などしていて、私がハナアブをつかんでいると「先生、これ刺さない?」と、よく聞かれます。「大丈夫、これは羽が二枚だからハナアブ。四枚ならハナバチだけど・・」とその都度、説明するのですが、どうも信用してもらえないようで、「もってごらん」と言っても、今の学生達にはなかなかつかむ勇気はないようです。シオヤアブなどのムシヒキアブ類やハバチ類など毒針のないハチの仲間にも、針のあるハチに擬態していると思われるものは数多くあります。

 ハチをまねているのはアブなどの双翅目だけではありません。蛾の仲間のスカシバはキイロスズメバチやオオスズメバチとそっくりです。スカシバ類は鱗翅目でありながら、前翅・後翅にはほとんど鱗粉がなく,翅が透明です。しかもかれらは飛び方や産卵中の姿勢までスズメバチそっくりで、虫の専門家がみてもだまされてしまうほどです。

 甲虫類のトラカミキリ類やハナカミキリ類にもスズメバチやアシナガバチに擬態しているものが数多くいます。カミキリムシは甲虫ですから、前翅が堅い翅鞘(ししょう)に変化し、後翅は翅鞘の下に折り畳まれていて、飛ぶときにはそれが広がります。そしていわゆる黒と黄(橙)色のハチ模様は翅鞘に出ています。それくらいなら、よく見ればホンモノのハチでないことがわかりそうですが、実はこれらのカミキリムシ類もスカシバ類と同様、その飛び方までハチに似ているのです。

 ハチへの擬態はアブだけでなく、蛾や甲虫にまで広がっているのです。ひょっとするともっと多くの昆虫、さらには昆虫以外の動物群にも、ハチをまねることによって、鳥の捕食を逃れている動物がいるかもしれません。野外で誰が”ハチまね”をしているか、皆さんも探してみて下さい。

投稿情報: 2010年3 月 1日 (月) | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (0)

第23回.まずいホタルは鳥も食わない

 夏の風物詩ホタル。ホタルはつかんでも咬まないし、特にイヤなニオイを出すわけでもないし、姿も醜くないし、ということでわりと人々に愛されている昆虫です。けれど人間に愛されているといっても、人間以外の動物にとってはどうなのかというと、実はホタルは自然界ではかなり嫌われものの虫なのです。なぜならホタルは外敵に襲われたとき、後肢の腿節から悪臭のある忌避物質を分泌します。そのため鳥をはじめ、食虫性の哺乳類や爬虫類、カマキリ、アリ、アシナガバチなどもホタルを避けるといいます。

 このように多くの天敵がホタルを食べないことになると、当然ホタルに似た虫たちが進化して来ます。今回はホタルをまねる虫たちの話を紹介しましょう。

 ダーウィンと共に自然選択説を提唱したウォーレスは,カメムシ、カミキリムシ、ベッコウバチまでがホタルの真似をしていることを述べていますし、実際、ホタルに擬態している昆虫はアフリカ、アメリカ、東南アジアなどでこれまで沢山の例が報告されています。

 胸が赤で、上翅が黒という、ゲンジボタルやヘイケボタルに見られるパターンは、多くの昆虫に見られます。こころみに手元の甲虫図鑑を広げてみたところ、いるわいるわ、オオキノコムシ科、コメツキモドキ科、ゴミムシ科、ホソクビゴミムシ科、シデムシ科、ハムシ科、コメツキムシ科、クチキムシ科

、ツチハンミョウ科、カッコウムシ科、ベニボタル科、カミキリムシ科、オオハナノミ科など、甲虫のかなりの科に赤に黒のこのパターンの虫たちが出現します。こんなにも多くの祖先の異なる虫たちに、この配色が進化してきたことの理由は、「ホタルがまずくて、鳥に避けられる」という1点につきます。

 ニューギニアや東南アジアに行くと、1本の木に何千〜何万匹もの蛍がとまって、一斉に点滅する“ホタルツリー“という現象が見られます。ホタルが集合する木は決まっていて、集団はほぼ年中を通して維持されています。ところがこの集団内に、ホタルでない虫たちが沢山混じっているのです。昆虫の種類はベニボタル科、ジョウカイボン科、カッコウムシ科、ハムシ科、鱗翅目と、多岐に富んでいましたが、面白いことにどの種も前胸背板が赤褐色、上翅が黒色だったのです。これらの虫たちはホタルに擬態しているのです。同様にマレー半島のマングローブ林でも、ホタルツリーが形成され、その大集団中にホタルそっくりのジョウカイボン科、ハムシ科、ウンカ類などが混じっています。 

 このうちベニボタル科やジョウカイボン科もホタル同様、忌避物質を分泌します。ですからホタル科とベニボタル科・ジョウカイボン科は互いにミュラー型擬態、それ以外の無害の虫たちはベーツ型擬態というわけです。かれらはホタルに似ているだけでなく、ホタルの集団に身を隠して、より効果的に天敵による捕食を逃れているのです。

「野外にはホタルそっくりの虫たちがいっぱい(画:橋口陽子)」

 

ホタルもどき  

投稿情報: 2010年2 月 3日 (水) | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (0)

第22回 テントウムシは不味い!(テントウムシだまし)

 中高生の皆さんも、そろそろ親戚のおにいさんやお姉さんの結婚式に出る機会があると思います。結婚式の中でよく流れる曲の1つに、お父さん・お母さん世代に受ける「テントウムシのサンバ」(チェリッシュ)という歌があるのを知っていますか(1970年代に流行った歌だからちょっと古いかな)?この歌詞に「赤、青、黄色の衣装をつけたテントウムシがしゃしゃり出て・・・・」というフレーズがあります。さすがに青いテントウムシはいませんが、赤と黄色(オレンジ色)それに黒の配色のテントウムシは沢山います。

 赤や黒の斑紋を持つナナホシテントウやナミテントウは、郊外にいけばどこにでもいますし、きれいな配色なので、皆さんも見たことがあると思います。ではテントウムシたちは,なぜあんなにきれいな、目立つ配色をしているのでしょう?このブログをずっと読んでくださっている読者の皆さんはもうお気づきでしょう。そうです。「目立つ奴はアブナイ!」というのが自然界の法則です。

 テントウムシは人や鳥につかまれると,関節部から黄色の液体を分泌します。この液体には強い異臭と苦味(私は食べたことはありませんが)があり、うっかりテントウムシをくわえて、苦い味に懲りた鳥はテントウムシを二度と口にしようとしません。

 さてテントウムシが不味くて、鳥に避けられるとなると、当然、それのそっくりさんが出現し(進化してき)ます。たとえば前回のトリノフンダマシ類のツシマトリノフンダマシですが、このクモはテントウムシ(とくにジュウニマダラテントウムシダマシ)そっくりです。ツシマトリノフンダマシは長崎県対馬で見つかったことから、この名前がつきました。メスの体長が8ミリほどの小型のクモで、オスがまだ見つかってない、とても珍しいクモです。オニグモなどと同じように、日中は葉の裏に身を潜め、夜間に糸を張ります。じっとしているときは足を縮めて、丸い背中しか見えないので、本当にテントウムシそっくりです。しかもこのクモのすごいところは、裏返してみても、テントウムシが足を縮めて丸まっているようにしか見えないことです。

 長い長い進化の歴史の中で,たまたま(ちょっとだけテントウムシと似た)赤と黒の配色を持ったこのクモの祖先を、鳥がテントウムシだと誤認したところから、“そっくりさん”への進化がはじまったのです。進化ははじめに目的があるのではなく、その多くは間違いからはじまるのです。間違いこそ「進化の原動力」です。

   

ツシマトリノフンダマシはテントウムシそっくり(画:橋口陽子)

 橋口シジュウカラ

投稿情報: 2010年1 月 8日 (金) | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (0)

第21回 トリノフンダマシ=鳥の糞だまし


Fundanasu  

 

 

 

 

 

 

前回はアゲハの幼虫が鳥の糞に似ているという話でしたが、クモの仲間には実際にトリノフンダマシ(鳥の糞だまし)やオオトリノフンダマシというクモがいます。関東にもいますが、どちらかというと暖かい地方に分布する

コガネグモ科に属するクモの仲間です。足を折り曲げて、胴体の下に隠し、葉っぱの裏にじっとしていることが多いので、なかなか見つかりません。

 

 鳥の糞と似ているからと付けられたこの名前、先入観を持って見てみると、確かに鳥の糞に似ていなくもないのですが、アゲハの若齢幼虫のような形態ではありません。なんとなくゼラチン質に包まれたヒナの時期の糞といった風情(ふぜい)です。オオトリノフンダマシなどは、よく見るとカマキリの顔のようにも見えます。かれらが本当に鳥の糞と似ているから捕食を逃れているのか、それともなにか別の不気味な生き物の顔に見えるから鳥が避けているのか、どちらでしょう。

 私はトリノフンダマシ類のクモは糞擬態ではないように思います。それより九州南部から沖縄にかけて分布するカニグモ科のカトウツケオグモなどのほうが、アゲハの若齢幼虫タイプで、よっぽど鳥の糞に似ています。この種は糞に似たニオイを出して、チョウなどをおびき寄せて捕食すると言われています(防衛のためではなく、餌を捕食するためのこのような擬態を攻撃擬態といいます)が、これを確かめた人はいません。

 防衛にしろ、攻撃にしろ、クモたちはいろんな擬態を進化させています。皆さんも、庭の片隅でクモを見つけたとき、気持ち悪がらずに、このクモは何をしているのだろうと、じっくり観察してみてください。クモの身体の模様や網の形について、いろんな進化のアイデアが浮かんでくるかもしれません。

投稿情報: 2009年12 月14日 (月) | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (0)

第20回 糞のフリして捕食を回避    

Photo  

  うちの庭にはサンショウの木が沢山あります。どれも大きさは10〜30cmくらいで、実生(みしょう)から稚樹(ちじゅ)くらいの段階の小さなサンショウです。なぜ庭に蒔いた覚えもないのにサンショウの木が沢山あるかというと、どこかでサンショウの実を食べたヒヨドリやメジロが、うちの庭で糞といっしょにサンショウの種子を落とし、そこからサンショウが生えて来たのです。最初に生えてきた木はもう10年以上になりますが、まだせいぜい30cmくらいにしか育っていません。なぜかというと、がんばっていくら葉をつけても、アゲハに葉をつぎつぎに食われてしまって、ほとんど成長する余裕がないからです。それにしてもアゲハはよくこんな小さなサンショウの木まで見つけて産卵するなあと思います。

 このアゲハですが、若齢期(じゃくれいき)の幼虫は鳥の糞そっくりの姿をしています。ぼんやり葉っぱを見ていると、幼虫とは思わずに、スズメの糞でもついているのかなと思ってしまうほどです。皆さんは鳥の糞はご存知ですね。スズメやツバメの糞はだいたい白と黒褐色のまだら模様をしています。この白い部分は体内でできた老廃物の尿酸です。尿酸は常温で固体なので、この白い部分が鳥の“おしっこ”と呼べるものなのです。ほ乳類は水に溶ける尿素を老廃物として排泄するので、おしっこをしますが、鳥には液体状のおしっこはないのです。セミにおしっこをかけられた経験のある人はいてもスズメやツバメにおしっこをかけられた人はいないのはそういうわけです。

 アゲハの幼虫にはもっと面白い形態変化があります。それは鳥の糞にそっくりなのは、若齢期だけなのです。アゲハの幼虫をずっと観察していると、幼虫の体色がある時期を境にして劇的に変わることがわかります。鳥の糞そっくりなのは4齢幼虫までで、4齢から5齢になるときに脱皮すると、突然、それまで鳥の糞そっくりだった地味な幼虫が、緑色の幼虫に変身します。そればかりではなく行動まで変化させ、それまでは葉っぱの上にとまっていたのが、葉の付け根あたりに移動します。これ以上大きくなると、糞の真似ではごまかしきれないと思うのでしょうか。

 アゲハの幼虫が鳥の糞にそっくりなのは、かれらの捕食者が視覚によって餌を探す鳥だからです。鳥にとって鳥の糞ほど無価値なものはありません。これがたとえば虫の糞そっくりだとすると、虫の糞それ自体は鳥にとって価値はありませんが、鳥はその周囲を探せば糞をした”虫”がいると思って、慎重にその”糞”を吟味するかもしれません。アゲハだけでなく、キアゲハやクロアゲハも弱齢幼虫の時は鳥の糞そっくりなのは、糞擬態が鳥に対してかなり効果があることを示しています。

投稿情報: 2009年11 月 4日 (水) | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (0)

第19回 ヒヨドリは果実食の専門家

 私が勤めている立教大学の構内にはアオキの木が沢山植えられています。冬になると雌株(アオキは雌雄異株です)には赤い実がつきはじめ、それを目当てにヒヨドリがやって来ます。ヒヨドリはアオキの実が大好きで、近くの木にとまっては、時々、アオキの茂みに飛び込んで大きな実をくわえて枝へ戻り、口をいっぱいに開いて飲み込んでいます。ヒヨドリの口はかなり大きいので、かなり大粒のアオキの実でも食べられるのです。

 さてこのヒヨドリ、見ていると、アオキの実を食べるときに、その実が熟れているかどうかを、どうも試食して調べてから食べているらしいのです。木についているアオキの実には緑から真っ赤まで、成熟度に応じていろいろな色彩の段階が見られます。そしてよくみると、実に嘴の跡が沢山ついているのです。緑色の実には跡はなく、赤くなりはじめた頃から、嘴跡がつきはじめます。ヒヨドリは実が赤くなりはじめると、食べられるかどうか、嘴でくわえて見て、実の成熟度をはかっているのです。

 私の友人の大阪自然史博物館のOさんも、博物館のある長居公園ではヒヨドリがホルトノキの果実を食べる際に、種子が小さく、果肉が多い実をつける株をしっかり選んで食べているらしいと言っていました。ヒヨドリは果実を食べるにあたって、かなり賢く、慎重に選んでいるらしいことがわかります。

 限られた時間に効率よく、しかも質の高いエサを食べるには、いろいろな能力(専門的技術)が要求されます。ツグミやムクドリも果実を食べますが、ヒヨドリのように慎重ではなく、実のなる木があれば、皆でそこに集まり、あまり何も考えずにパクパク食べているようです。ムクドリやレンジャク類は、ときどき未熟な果実を食べて、大量死を引き起こしますが、ヒヨドリではそんなことは起こりません。このあたりが長い時間をかけて果実食を進化させて来たヒヨドリと、他の鳥との違いです。

 ヒヨドリ科の鳥はすべて果実食で、東南アジア熱帯に多くの種類が生息しています。日本のヒヨドリはその中で、唯一、北方へ分布を拡大して来た種類です。熱帯の住人で、果実食の専門家だったヒヨドリの先祖は、果実を上手に、効率よく食べるために、さまざまな能力を進化させているのです。
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図の説明:アオキの実の品定めをするヒヨドリ

画:橋口陽子

投稿情報: 2009年10 月15日 (木) | 個別ページ

第18回 食べ過ぎはダメ!—ドングリその2—

 秋になり、そろそろ団栗(ドングリ)が実る季節です。だいぶ前にカケスやアカネズミがドングリを貯蔵する話をしましたが、実はこのドングリ、決しておいしいだけの木の実ではないのです。

 自分では動けない植物は果実を実らせ、鳥やケモノにはおいしい果肉を報酬として与えて種子を運んでもらいます。けれど果肉は食べられても、種子は無傷で運んでもらえるサクランボやカキの実ならいいのですが、ドングリは動物に食べられる部分が種子そのものです。種子を食べられてしまってはドングリの木は子孫を残せません。そこでドングリをつける木が採用した戦略が、「ちょっとだけなら食べてもいいよ」戦略です。

 植物は葉や樹皮や果実にタンニンという物質を蓄積しています。タンニンはお茶やコーヒーや赤ワインなどに含まれる渋みのある成分です。渋柿をかじった経験のある人は、舌がざらざらになって、しびれたようになる感覚を味わったことがあるでしょう。この柿の渋味がタンニンの正体です。水溶性のタンニンはタンパク質と結合しやすく、消化阻害を引き起こす性質を持っています。舌がざらざらになる感覚はタンニンのこの性質のせいです。だからもし果実や種子に多量のタンニンが含まれていると、その種子や果実がどんなに栄養価が高くても、一度にたくさん食べることはできません。

 シイ(スダジイ)の実など、そのまま煎って食べることができるドングリもありますが、コナラ、ミズナラ、クヌギなど、多くのドングリの実はタンニンを大量に含んでいるため、そのままでは渋くてとても食べられたものではありません(好奇心の旺盛な皆さんは、一度、試してみてください)。けれどアカネズミやリスやカケスは、ドングリの実が大好きで、冬に備えて大量に貯えます。ドングリはタンニンを沢山含んでいるのに大丈夫なのでしょうか。実際、アカネズミにドングリだけを与えて飼育実験をすると、アカネズミたちはドングリを食べるのですが、しばらくするとどんどん栄養状態が悪くなっていき、最後には死んでしまいます。放牧しているウマやブタについてもドングリの食べ過ぎで中毒を起こす例がヨーロッパで知られています(カシのドングリを食べさせて育てるイベリコ豚は大丈夫なのかな?)。

 そこでアカネズミたちはドングリを土に埋めたりして、長期間放置することで、水溶性のタンニンを不溶性のものに変化させて(いわゆるアク抜き)、食べられるようにしているらしいのです。カリフォルニアに棲んでいるドングリキツツキたちがドングリの実を枯れ木に埋め込んで、あとで取り出して食べているのもこの理由だと思います。

 ま、とにかく、いくらドングリの栄養価が高くても、動物たちはドングリだけを食べては生きられないようです。ドングリの木が大量にドングリを実らせるのは、「ちょっとだけなら食べられても構わないけれど、沢山はダメよ」という、ドングリの木の種子散布戦略なのです。
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図の説明:ドングリを運ぶアカネズミ(画:橋口陽子)

投稿情報: 2009年9 月 5日 (土) | 個別ページ

第17回 植物がトゲを持つ理由

 きれいな花にはトゲがある、とよく言われます。バラの花もそうですし、アザミ等は細いトゲがいっぱい生えていて、さわるとチクチクして大変です。

 スペインのアンダルシア地方を旅行したことがあります。生えているのはトゲトゲのキイチゴとアザミの類ばかり。鳥の姿を求めて茂みに入って行くときなど、ちくちくして大変だった記憶があります。イギリスの郊外でも、ちょっとした林の下草は、刺草(イラクサ)系の植物ばかりです。

 ヨーロッパにはなぜこんなにトゲトゲの植物ばかり幅をきかせているのでしょう。それは人間がウシやヒツジを放牧して、牧畜生活をおくって来たヨーロッパの長い歴史があるのです。つまりウシやヒツジが好む柔らかくておいしい植物は過去において食い尽くされてしまって、かれらが避けるトゲトゲの植物だけが残されて来たのです。日本でも信州の牧場などにいくとアザミばかり生えているのは、こういう理由です。

 トゲではありませんが、細かい毛も問題です。春に展開したばかりのコナラの新葉は銀色でビロードのようなやわらかい毛におおわれています。アカメガシワの新葉も短い毛が一面に覆っています。こうした毛は柔らかいといっても蛾や蝶の1令幼虫にとっては、十分な食いつきの障害になります。アブラムシなどの小さな吸汁性(きゅうじゅうせい)昆虫などにとっても、葉や茎に生えた細かい毛は厄介な代物でしょう。

 トゲや毛がなくても、固い葉っぱには幼虫たちはなかなか食いつけません、たとえばチャドクガの孵化したての幼虫は、みんなで集まって葉っぱに食いつきます。なぜ集まって食いつかなくてはならないかと疑問を持って実験をした人がいます。一匹ずつシャーレに入れて飼育した場合、チャドクガの幼虫はほとんど葉に食いつけずに死んでしまいます。小さな幼虫にとって、固い細胞壁をもった表皮細胞でガードされている葉はそう簡単にはかじれないのです。けれどたくさんの幼虫がいると、その中には、葉に食いつける個体もまじっています(これを個体変異といいます)。一匹でも葉にくいつければしめたもの。あとはそのかじり跡に皆で頭をつっこんで、葉を食べていくのです。ハバチの仲間も、卵をまとめて産んで、ふ化した幼虫たちが、図のように1枚の葉っぱに集まって、まわりから一斉に食べ始めます。

 春になると一斉に毛虫が出て来るのも、柔らかい葉が固くならないうちに食いつこうという昆虫側の適応なのです。みなさんも、なぜこの植物にはトゲや毛があるのだろう、なぜ毛虫は集まっているのだろう、という自然界への素朴な疑問を持って、まわりの虫や植物を見て下さい。
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(図の説明)

1枚の葉っぱをまわりから一斉に食べるチュウレンジハバチの幼虫。全員がお尻を上げているが、なぜこんな奇妙な行動をするのか、よくわかっていない(画:橋口陽子)

投稿情報: 2009年8 月 5日 (水) | 個別ページ

第16回 アサギマダラがゆっくり飛ぶ理由

 アサギマダラという蝶を知っていますか。遠く海を越えて、台湾あたりまで渡りをする蝶として、ときどき新聞ニュースで報じられるので、知っている人もいるかもしれません。浅黄色(といっても黄色ではありません。淡いパステルブルーの色のことです)をベースにした大型で優雅なこの蝶は、山の尾根筋などで出会うことが多いのですが、いつ見ても、羽を広げて風にのって、フワフワと飛んで行きます。あんなにのんびりしていて鳥に食べられないのだろうかと、初めて見たときに思った記憶があります。アサギマダラはなぜあんなにゆっくり飛ぶのでしょう。

 それはアサギマダラが毒蝶だからです。アサギマダラもジャコウアゲハのようにアルカロイドを含むガガイモ科の植物を食草としています。また成虫はヒヨドリバナやフジバカマによく集まっていますが、これらヒヨドリバナ属の蜜にもアルカロイドが含まれています。オスのアサギマダラは、成虫になった後でも、アルカロイドを摂取しないと性的に成熟できないのです。アサギマダラたちはこうして、アルカロイドを体内に取り込み、自分を守る防御物質として利用しています。

 アサギマダラの仲間たちは南に行くと種類が増えます。オオゴマダラ、カバマダラ、スジグロカバマダラ、リュウキュウアサギマダラなど、沖縄に行くとたくさんのマダラチョウ科のチョウたちに出会えます。見ていると、これらの蝶たちも、かなりゆっくり、のんびり飛んでいます。オオゴマダラなどはそののんびりした性質から沖縄では”バカ蝶”と言われているくらいです。マダラと名前につくこれらの蝶たちも、実はすべて毒蝶なのです。

 「ゆっくり飛ぶ蝶=毒蝶」というルールが自然界にはありそうです。では毒のある蝶はなぜゆっくり飛ぶのでしょう。それは捕食者である鳥たちに、「私は毒を持っていますよ」というメッセージを確実に伝えるための信号なのです。鳥たちは「ゆっくり飛んでいるチョウは毒蝶」と認識して手を出さないのです。

 アサギマダラについてはもうひとつ面白い行動があります。それは普段はゆっくり飛んでいる彼らを捕まえようと捕虫網をふるって、捕獲に失敗したときです。2度目をふるう間もなく、アサギマダラはそれまでのゆっくりした飛び方から素早い飛び方に変身して、あっという間に飛び去ってしまいます。アサギマダラは(オオゴマダラもそうです)「毒蝶メッセージ」が通じない相手に対しては、さっさと逃げるが勝ち、という行動様式を身につけているのです。
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イチモンジセセリ等の蝶と比べて、アサギマダラはゆっくり飛ぶ(画:橋口陽子)

投稿情報: 2009年7 月 5日 (日) | 個別ページ

第15回 植物の毒を有効利用(アルカロイドのお話)

 前回はアブラナ科の植物が持っているカラシ油配糖体の話でした。カラシ油配糖体は植物の防御物質として、昆虫にはよく効くようですが、鳥やケモノにはあまり効果はないようです。それはモンシロチョウの青虫はかなりスズメに食べられていることからもわかりますし、ヒヨドリはとくにキャベツが好きで、キャベツ畑にやってきてパクパク食べてしまいますから、カラシ油配糖体は鳥からの防御物質とはならないようです。同様に私たち人間も、ワサビや大根の辛みをおいしいと感じていますから、カラシ油配糖体は哺乳動物に対して進化してきたのでもないようです。

 しかし植物がつくった防御のための化学物質には、せきつい動物にもよく効くものがあります。前々回でシカとアセビの話をしましたが、あの馬が酔うアセボトキシン(最近はグラヤノトキシンⅠという名称が使われているそうです)はアルカロイドと呼ばれる物質の1種です。アルカロイドはツツジ科、ケシ科、ナス科、ヒガンバナ科、ウマノスズクサ科などの植物によく含まれている成分で、生物にたいして強い毒性をもつものが多く、麻薬のコカインもフグなどが持つ猛毒成分のテトロドトキシンもアルカロイドの仲間です。

 こう書くと、アルカロイドって、ちょっと恐そうですね。しかしその一方で、薬用植物の主成分もアルカロイドであることが多く、たとえばマラリアの特効薬として使われるキニーネはキナという木の皮に含まれています。身近なところでは、カフェインはコーヒーやお茶に含まれる成分ですから、皆さんもよく知っていると思います。

 さてそのアルカロイドの一種のアリストロキア酸は、ジャコウアゲハが好きなウマノスズクサ属や、ギフチョウが好きなカンアオイ属の植物などに含まれています。だからこれらの植物はジャコウアゲハやギフチョウ以外の虫には食べられませんし、おそらく動物にも食べられないでしょう。

 ところで、ジャコウアゲハの幼虫は黒に赤白の模様の入った、トゲトゲのいかにも毒々しい感じをしています。かれらは自分が食べたウマノスズクサに含まれるアリストロキア酸を体内に取り込んで、自分自身の防御物質として使っています。ジャコウアゲハの幼虫がどんな味がするのか、私は食べたことはありませんが、もし鳥が間違って食べてしまうと、あまりのまずさ(刺激?)に「ペッ」と吐き出してしまいます。そういうひどい目にあった鳥は二度とジャコウアゲハの幼虫を食べようとしないでしょう。ジャコウアゲハの幼虫は食草の有毒物質を利用して、さらに身体を毒々しく見せることによって、鳥に食べられないように身体を守っているのです。
「間違ってジャコウアゲハの幼虫を食べてしまったヒヨドリは、あまりのまずさに吐き出してしまう」画:橋口陽子
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「間違ってジャコウアゲハの幼虫を食べてしまったヒヨドリは、あまりのまずさに吐き出してしまう」画:橋口陽子

投稿情報: 2009年6 月 5日 (金) | 個別ページ