X線で宇宙を観測することによって発見された大きな成果を話すとき「銀河団」の話をしないわけにはいきません。
銀河団というのは「銀河」の「団」ですから、「銀河」がたくさん集まった天体です。「銀河」と言うのは、私たちが住む銀河系もそのひとつですし、同じような規模で星やガスが集まったものです。多くは楕円銀河や渦巻き銀河、あるいは棒渦巻き銀河と呼ばれる種類に分類されどれも美しい形をしています。私たちの住む銀河系のお隣の大きな銀河はアンドロメダ座大星雲と呼ばれる銀河です。秋の星座であるアンドロメダ座にあります。このアンドロメダ座大星雲は、月の出ていない秋の夜に空の暗いところに出かけて、星空を見上げると肉眼でもボヤーと光っている星ではない天体として見えます。そのような銀河が小さなものでは数十個、大きなものでは数千個集まってひとつの天体を形成しているものがあります。それが銀河団です。小規模なものは銀河群と呼ばれます。また、単独で存在する銀河もあります。図1はスバル望遠鏡が取った「かみのけ座銀河団」のほんの一部です。少しぼけて写っているひとつひとつが銀河です。そうすると、写っているものはほとんど銀河だと言うことが分かりますね。「かみのけ座銀河団」には、千個以上の銀河が集まっていることが分かっています。
また、この銀河団と呼ばれる天体は、たまたまたくさんの銀河が同じ方向に見えるのではなく、たくさんの銀河がお互いの重力で引き合って結びついている、ちゃんとした一塊の天体だと言うことに注意してください。そのように重力で引き合って結びついていると天体を、重力で束縛された天体と呼びます。銀河団は宇宙の中で、最も大きな重力で束縛された天体です。ですから、宇宙開闢以来、銀河団が何時どのようにしてできたのかと言う問題は大変興味あります。銀河がまずできて、それらが集まってきたのでしょうか?あるいは、はじめに大きな塊ができて、その中で銀河が生まれたのでしょうか?これは宇宙の進化を左右する大変重要な問題ですね。
さて、図1の「かみのけ座銀河団」をみると、確かにたくさんの銀河が写っているけれど、銀河と銀河の間は隙間だらけですね。銀河と銀河の間の空間を銀河間空間と言います。この「かみのけ座銀河団」をX線で見ると図2のように見えます。普通、個々の銀河をX線で見ると、銀河の中にあるたくさんのブラックホールや中性子星、あるいは超新星残骸等のX線を放射している天体が見えます。また、銀河によっては、高温のガスをたくさん持っていて、それが結構明るいこともあります。まあ、それなりに個々の銀河もX線で光っています。ところが、銀河団をX線で観測すると、個々の銀河も光っているのですが、それにも増して、銀河団全体がボヤーとX線で輝いているのです。これは、銀河団の中の銀河間空間を満たす高温ガスです。可視光では決して見えなかったのですが、X線で見るとその姿が浮き上がって見えてきたのです。
さらに驚くべきことがあります。この銀河団の中に満ちている高温ガスの質量を計算してみると、銀河団に含まれるすべての銀河の合計の質量より重いのです。「かみのけ座銀河団」では高温ガスの質量は個々の銀河の質量の合計のおよそ10倍はあるようです。すなわち、銀河団と呼ばれる天体は、銀河の集団というよりは高温ガスの塊だったというわけです。これが、X線で宇宙を観測して分かった大変重要な観測事実のひとつです。私たちが住む宇宙の構成物について、まだまだ知らないことが多いということを思い知らされたと言うわけです。
ところが。世の中はまだまだ複雑です。実は、銀河団の全質量はいろいろな方法で推定できます。たとえば、この高温ガスの温度を調べてみます。およそ10億度という温度がX線のエネルギースペクトルから分かります。この10億度のガスが飛散せずに、万有引力によって束縛されています。高温のガスは、大きな速度(大きな運動エネルギー)を持って飛び回っているのです。小さな万有引力による引付なら、それを振り切って飛んでいってしまいます。でも銀河団では10億度のガスを引き付けておくだけの万有引力を持っているのです。その万有引力を作り出すには、高温ガス自身の質量のさらに10倍の質量が必要であることが計算できます。同じような計算は、重力レンズと呼ばれ現象を使ってもできます。この10倍の質量の元は何か分かりません。今ではダークマター(暗黒物質)と呼ばれています。なお、この10倍と言う数字は、銀河団によって異なります。一般に大きな銀河団ほど、大きな割合の高温ガスが、また、大きな割合のダークマターがあるようです。
ということで、銀河団は可視光で見ると銀河の集団だけれども、X線で見ると銀河の10倍の高温のガスがあって、さらに、その10倍のダークマターがあると考えられているのです。銀河団はダークマターでできているといってもいいですね。
図1:すばる望遠鏡による「かみのけ座銀河団」の一部を拡大した写真。たくさんの銀河が写っています。
図2:チャンドラ衛星によって撮影したX線による「かみのけ座銀河団」の写真。個々の銀河ではなくて全体に広がった高温ガスが見える。